海洋酸性化が海の生き物に影響を与える!?~地球温暖化対策の重要性~
ここでは、海洋酸性化が環境にもたらす影響について紹介します。
表面海水の「pH(ピーエイチ)」は弱アルカリ性
海水中のpH(ピーエイチ)*は一般的に弱アルカリ性を示し、表面海水中での約8.1から深くなるにつれてpHは下がり、水深1000m付近で約7.4と最も低くなります。
もともと海洋は大気中の二酸化炭素(CO2)の主要な吸収源の一つであり、人が排出したCO2の2〜3割に相当する量を海洋が吸収していて、海水中に溶け込んだ二酸化炭素(CO2)は、炭酸水素イオンや炭酸イオンの形で存在しています。
大気中の二酸化炭素が増えると、海の中に溶け込んでいる炭酸水素イオン(HCO3-)や炭酸イオン(CO32-)も増えて、対になる水素イオン(H+)も増加するため、海洋が酸性化することが知られています。
*pH(ピーエイチ)とは、「水素イオン指数」とも呼ばれ、水素イオン濃度で規定される酸性度を示す指標です。中性であればpH=7、水素イオンの濃度が高いほど数字が0に近く酸性は強くなり、14に近いほど水素イオン濃度は低く、アルカリ性を示します。
海洋のpHが低下するほど、海洋中に溶解している炭酸カルシウムは減少する
では、海洋酸性化はどのような影響をもたらすのでしょうか。海洋酸性化が進んで海水中の水素イオン(H+)が増えると、炭酸イオン( CO32-)との反応が進み、炭酸イオン濃度(CO32-)が低下、炭酸水素イオン(HCO3-)の濃度が上がります。
つまり、海洋中の炭酸物質平衡状態はpHにより変化し、酸性になると上の式の反応が右に進むため、炭酸イオン(CO32-)の存在比が低く、アルカリ性になると炭酸イオン(CO32-)の存在比が高くなります。
これにより、海水のpHが低下するほど、海水中に炭酸カルシウム(CaCO3)として溶け込んでいる量(炭酸カルシウムの飽和度)も低下してしまいます。
炭酸カルシウム飽和度が低下が、石灰化生物に与える影響
さて、海洋中に生息するサンゴや貝類などの生物は、海水中に多く含まれるカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO32-)から炭酸カルシウム(CaCO3)の骨格や殻を生成するため、「石灰化生物」とも呼ばれます。
この炭酸カルシウム(CaCO3)には、アラゴナイト(アラレ石)やカルサイト(方解石)といった結晶形があり、石灰化生物の種類により、結晶系の異なる殻を形成します。
同じ炭酸カルシウム(CaCO3)でもアラゴナイトの方がpHの低下によって溶解しやすいといった化学的性質を持ち、すでにいくつかの海域では、海洋酸性化に伴うアラゴナイトの飽和度の低下が実際に報告されています。
そのため、アラゴナイトの殻や骨格を持つ生物の方が、海洋酸性化による影響をより受けやすいとされ、海水中のpH/炭酸カルシウム飽和度に相関してサンゴの石灰化速度が低下するという報告もあります。
海洋酸性化による生態系への影響を少なくするには?
海水酸性化は、今後、生物に対する影響が顕著になってくる可能性がありますが、生物種ごとの影響はまだ十分に解明されていません。
現状では、海洋酸性化の影響を小さくするには、二酸化炭素の排出を抑制し、できるだけ低い大気安定化レベルを実現するという根本的な温暖化対策しかないと考えられます。
現在行われている地球温暖化政策は、海洋の酸性環境にも影響を与える重要な政策でもあるといえます。